[2.新しい家で]

私たち二人が玄関までの冒険を乗り切ってくると、ドアの前でお父さんが微笑んでいた。

「ごめんお父さん。お庭はジャングルで危険が一杯だったの」
「そうだろうねぇ。車庫もマヤの遺跡みたいだったよ」

私はお父さんの脇をすり抜けて扉の鍵穴に大きな真鍮の鍵を差し込んだ。がちゃりっと鍵を開けてノブを回すと、蝶番がいいいいっと軋んで扉が開く。

「ねぇおとうさん、お化け出る?」
クレアが不安そうにお父さんの手を握った。もう片方の腕もぎゅうっとトールを抱きしめている。お父さんは少し笑ってクレアを抱き上げた。

「ここはとっても古い家なんだ。お化けの一人くらいはいるかもしれないね」
「お父さん! クレアが眠れなくなっちゃうでしょ!」

私は勢い良く言ったけど、本当は自分もどきどきしていた。街にはどんなに寂しい路地にだって人の生きている匂いや息づかいを感じる。でもここには埃の匂いと、植物の密かなざわめきしかないみたいだ。

長い間ひとの目を逃れて暮らしてきた違う世界の生き物たちが、ここはおれたちの家だ、人間は入るんじゃない、と脅しているような気さえしてしまう。

「お邪魔しま~す……」
自分の家だというのにそう言ってしまったのは、そんな気配の所為だ。でも玄関を抜けて一歩家の中に入ると、それまで感じていた不安は吹き飛んでしまった。

玄関の上の大きな窓から吹き抜けのホールに差し込む柔らかい光が、最近塗り直されたらしい白い漆喰と左右に列を成している石の柱を柔らかに照らしていた。二階へと上がる階段は途中で翼のように左右に分かれ、二階の回り廊下へと螺旋を描いて繋がっている。

その階段からは今にも着飾った貴婦人が軽やかに下りてきそうで、とても悪霊が現れるようには見えない。

stair

「思ってたよりきれいじゃないか。きっと前に住んでいた人がとても大事に使っていたんだろうね」
クレアもお父さんの腕から飛び出して私の隣に駆けてきた。
「すごいねおねいちゃん!」
「うん! すごい!」

その日の午後は、古いけど新しい家の探険であっという間に終わってしまった。 東と南に大きな窓があってとても明るいリビングには、この家が出来たときからそこにあった大きくてどっしりとした暖炉と、ふかふかの白いソファー。

以前の住人が残していった本がぎっしり詰まった本棚が四つもある書斎にはベッドみたいに大きな机が置いてあり、多分一日座っていても疲れないと思うしっかりとした椅子があった。

そして二階の日当たりの良い部屋には素敵なテラスまであって、目の前の鬱蒼とした森や、遠くの斜面にある畑などを存分に眺めることが出来たのだ。私とクレアは大満足だった。きっとお父さんも満足していたに違いないだろう。

日が暮れかける頃には、私たちはもうこの新しい家の隅々まで探険してしまい、これからのここでの生活がきっと素晴らしいものになるだろうと確信していた。

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