[4.過去の遺産]

天井裏に頭を出すと、すぐにクレアが興奮した理由が分かった。

そこは思いの外広くて、真ん中の梁の部分は私でも屈まずに歩けるほど天井も高い。三つある天窓から差し込む明け方の涼やかな日差しが、百年以上も家を支えてきた梁や、埃の積もった床を眩しいほどに照らしていた。

そしてその中に並べられているのは、この家と同じ時代を生きてきた古い家具や調度品、何が入っているのか見当も付かない大きな物入れなど。

私は言葉を失いながら、天井裏に最初の一歩を踏み出した。お父さんが心配したほど床は傷んでいないようで、踵を下ろすと乾いた木材に特有のコツコツと小気味良い音がする。

「クレア。何処に居るの?」
「こっちだよおねいちゃん」
大きな物入れの影にしゃがみ込んでいたクレアが顔を出した。まだ登ってから三分と経っていないのに顔は煤で汚れ、髪には蜘蛛の糸が絡まっている。

でもそんなのはどうでもいいんだ。今は探険! 汚れなんて気にしていられない。
「どうだい? ほう、これはすごいねぇ。全部そのまま残っていたのか」
最後に登ってきたお父さんは、ずれた鼻眼鏡を直してから、じっくりと辺りを見回す。

お父さんは引っ越してくる前は街の大学で考古学の教壇に立っていた。もう機会がないと思っていただろうこういう調査に出会って、とても嬉しそうだ。

私たちは手分けして屋根裏を見て回った。さすがに高価そうな品物は無かったけれど、そんなことは問題じゃない。これらの古い品々を作った職人さんの思いや、使っていた人たちの生活を感じられるだけで十分だった。

「ジェシカ、クレア。ちょっとこっちにおいで」
お父さんが何か見つけたらしい。私とクレアが歩いて行くと、お父さんは他の品とはちょっと違う作りの大きな物入れの前に座って、なにやら熱心に虫眼鏡で観察していた。

「どうしたの?」
「これは、かなり古いものだよ。私は専門外だから詳しくは分からないけれど、恐らく14から15世紀頃に作られたものじゃないかな」

これには私もクレアもびっくりしてしまった。古代の遺物は博物館などでたくさん見たことがある。その中には四千年も前のものもあった。

でもそれらはまったく別の世界の物のようで、正直に言うとあまり実感が湧かない。だけどこの物入れは、確かに私たちが今生きている世界に繋がっている気がしたんだ。

「開けるの?」
「うん。見たところそれほど痛んでいないようだし、専門家に見せるにしてもこのまま下ろしたら中身が破損するかもしれないからね」
そう言うとお父さんは、物入れの蓋を慎重に持ち上げた。驚いたことにほとんど音がしない。

「余程しっかりした作りなんだな。それじゃあ、開けるよ」
私とクレアが瞬きもせずに見守る中、蓋が開かれた。
その中身を見た私とクレア、そしてお父さんは、しばらく言葉が出なかった。

まず目に飛び込んできたのが、箱の中にはめ込まれた棚に立てかけられた長い剣。もちろん本物だ。黒い革の鞘が少しずれて、宝石のように輝く刃が、今研ぎ直されたかのように光っている。

棚の上には剣と揃いの短剣や、表面のガラスが割れた方位磁石、ぴかぴかと光る望遠鏡、使い込まれた革の水袋なども置かれていて、薄い青色の花をつけたドライフラワーで飾られていた。

また、その棚の引き出しからは文字や絵が書かれた紙の束がはみ出し、棚の前には古びた革の表紙で閉じられた数冊の帳面が積み重ねられていて、琥珀色の液体で満たされた丸い瓶や白い陶磁器の小瓶まで入っている。

お父さんは傷つけないようにやさしく、それらを床の上に並べた。今すぐにでも使えそうに見えるほどに素晴らしい保存状態だった。

「それは何?」
クレアが引き出しから出てきた包みを指差した。それは蝋引きしたような光沢のある紙できっちりと包まれている20センチ四方くらいの包みで、麻の紐でしっかりと縛られているようだ。

「なんだろうね。見た目より重いし、ひょっとしたら宝物かもしれないぞ。ここで開けると壊してしまうかもしれないから、あとでゆっくり開けてみよう」

引き出しからは文書や絵のほかに地図も出てきた。私はその中から一枚抜き出して、お父さんにその場所を尋ねたが、それはお父さんも知らない場所の地図らしい。これらの大発見に、私は自分でも頬が赤くなっているのが分かるくらい興奮した。

もしかすると今までに数えるほどしか人が訪れていないかもしれない場所の地図と、そこを旅したと思われる人物の遺品。たくさんの紙と帳面にどんな見知らぬ国の出来事が書かれているのかを考えると、くらくらしてきてしまう。

取り敢えずそれらは後で調べることにして、私たちは屋根裏部屋の探険を続けたのだけれど、私の心はもう遠い国へと彷徨い歩いていた。

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