暗闇に眠る古の栄華。
水に沈む繁栄の夢。
時は流れ、今は幻。
砂に削られ、風に流され、
思い出からも消し去られ。

■第3話・出会いと別れと■

[1.キノコの森]

あまりの寒さに私は目を覚ました。どうやら手帳を読んでいるうちに眠ってしまったようだ。

ぐずぐずと起き出して、寝癖のついた髪をいいかげんに整えながら小屋のドアを開けると、そこには昨夜とはまったく異質な世界が広がっていた。

うっすらと残る朝靄に包まれた茸の森。夜には幻想的で夢のように見えた茸たちは、日差しによってその本来の色を露にし、毒々しいほどの野生を感じさせる。

そして、螺旋階段を下りて遥か下の地表を覗いてみると、さらに鮮やかな色彩が広がっていた。茶色や黒っぽい色など普通に見かける色の茸もあるみたいだけれど、ほとんどはザクロのような赤や目がちかちかするようなオレンジ色、綺麗な空色のものなども生えている。

私は昨夜手帳を読んでいて気になっていた<飛行器を呼び出す機械>を見てみることにした。

きょろきょろと辺りを見回してそれらしいものを探してみると、昨日バスが停車した場所のすぐ横に、先っちょに金属の球が乗った細い柱が立っている。どうやら砂漠のテントで見た、青いガラスのはめ込まれた球と同じ物のようだ。

動くかどうか確かめるために私はそれに近寄ったのだけれど、ひと目見てとても動きそうにないということが分かってしまった。その球はあちこちヒビ割れていて、中から小さな茸や苔がたくさん溢れ出ていたからだ。

念のためガラスに指を置いて押してみたけれど、茸が押し潰されるぷにっとした感触が伝わってくるだけで、しばらく待ってみても何も起きる様子がない。

こうなったら仕方が無い。私は手帳に書かれていた「北の鉱山にあるあれ」を見つけに行く決心をして、この樹上の小屋から森へと下りる道を探して辺りを見回した。

すると、小屋の裏手の方に何かがあるのが見えた。苔で滑る足下に気をつけながら歩み寄ってみると、それは小屋の屋根からケーブルで吊るされた大きな鳥籠のようなもの。

2メートルくらいの高さがあるそれは、小屋の土台にぽっかりと開いた穴の上にあり、どうやら地表へと下りるための昇降機のように見えた。

私はその昇降機に乗ってみようと、鉄格子の扉を開いて足を踏み入れようとしたのだけれど、進めかけた足を下ろすことが出来なかった。なぜって昇降機の床は目の粗い金網で、靄に霞む遥か下の地上が透けて見えていたからだ。

でも他に道は見当たらない。私は勇気を出して慎重に金網の上に立ってみた。もちろん昇降機の本体を形作っている鉄格子をしっかりと握りしめながらだけど。

金網の上に立ってみると、下からは生温い風が吹き上げている。多分、日が昇って温められた地表の空気が、上に向かって舞い上がっているんだ。

とにかく私は一刻も早くこの金網の上から逃げ出したかったので、急いで昇降機を動かすスイッチらしいボタンを押した。

小屋の真上のほうから微かに震えるような、唸るような音が聞こえ始め、次の瞬間不意に昇降機ががくんと揺れた。

ぎゃぁっと悲鳴を上げて昇降機の外に逃げようとしたけど、もう手遅れ。がくがくぶるぶると振動したり、時々がつんと引っ掛かったりしながら、昇降機は地上に向かって動き始めてしまっていたのだ。

いつケーブルが切れるか、床が抜けてしまうかと思うと目も開けていられない。最後の止めのようにがつんと揺れて昇降機が地上に着く頃には、私は腰を抜かして疲れ切ってしまっていた。

震える足をなんとか外に出し、鉄格子を握ったまま開こうとしない指をなんとか引きはがして昇降機の外に出た私は、その場に座り込んでしまいそうになったが、目の前に広がる光景を見て恐怖や疲れを一瞬で忘れてしまった。

目が眩むほどの色の洪水。無数に立つ巨大な茸と噎せ返るようなその香り。上から見下ろしたときには大きく目立つ茸だけが見えていたけれど、地上に立って改めて見てみると、巨大な茸たちの間を埋めるようにして小さなキノコや羊歯、蔦などが密生している。

そしてその植物の絨毯に埋もれるようにして、石畳の狭い道が森の奥へと延びているのが見えた。空を見上げて方角を確かめると、どうやらその道は北へと向かっているみたいだ。

この道を辿れば鉱山に着くのかもしれない。茂る草をかき分けて、私はその道を歩き始めた。

forest
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