深く暗い闇、遠く細い道。
深く沈む谷、遠く霞む空。
裂け目に眠る、いにしえの秘密。

■第5話・裂け目■

[1.天窓の部屋]

森の奥に見える遺跡に近づいてみると、その巨大さが実感できた。高さは10メートル以上、卵の頂上を少し切り取って垂直に立てたような形で、白い石材を積み上げて作られている。

私とクレアはすぐにでも遺跡の中に入ってみたい気持ちでいっぱいだったのだけれど、まずはその周りを調べてみることにして建物の裏側へと向かった。

不気味な魚のような顔を持つトーテムポールに見下ろされながら雑草をかき分けて進んでいると、なんだか物語の中の異境探検隊になったような気分になってきて、とっても興奮してくる。

と、不意に視界が開けた。傾きかけた太陽の眩しい日差しに目を細めながら見回してみると、遺跡の真裏あたりに木がまったく生えていない空間があるみたい。

何があるのだろうと近づいた私たちは、目の前に現れた光景に立ちすくんだ。そこはとてつもなく深い崖だった。向こう側まではかなり距離があり、とてもじゃないけど自分の力で渡ることは不可能に見える。

ここから先へどうやって進めというのだろう。崖が途切れる地点まで回っていくという考えがまず浮かんだけれど、左右どちらを見てみてもすぐに崖が途切れている気配はない。

しかも崖に沿って続く道などは無くて、あちこちから岩が突き出した鬱蒼とした原生林が続いているように見えた。

私一人ならなんとかなるかもしれないけれど、今はクレアが一緒だ。私より体を動かすことは得意だとはいってもまだ幼く、足に履いているのもサンダル。ぜったいに怪我をしてしまう。

「おねいちゃん! 下に道があるよ!」
森を見つめて考え込んでいた私が妹の声に振り向いてみると、なんとクレアが思いっきり身を乗り出して崖の底を覗き込んでいた。私はびっくりして声も出ず、無言で駆け寄って安全な場所まで引き戻す。

「危ないでしょ! 崖に近づいちゃだめ!」
「でもおねいちゃん、下にね、橋が見えるよ」
悪びれもせずに楽しそうに言うクレアを見てため息をひとつつき、私はびくびくしながら崖の底を覗き込んだ。

確かにクレアが言う通り、かなり下の方に対岸へと続く石橋が見える。木の根や様々な植物で覆われていてかなり危険そうだったが、崖を迂回するよりはずっと安全に先へと進めそうだ。

だけど、下へと降りる手段が無い。梯子やロープ無しに降りられる状態ではないのだ。ということはこちら側の地下に、橋へと続く道があるということ。そして地下へ続く道がありそうな場所はただひとつ。

私たちは白い遺跡へと引き返し、その入口の前に立っていた。左右に並べられた巨大な生物の彫像にじっと睨みつけられながら暗い洞穴のような入口を見ていると、言い様の無い不安が襲ってくる。

紫色の鉱石が入ったランプを用意して、私は慎重に遺跡の中に踏み込んだ。中はとても暗く、じめっとした空気が髪を重くする。

だけど少し目が慣れてくると、建物の中はたくさんの小窓から入ってくる光で、それなりに明るいことが分かってきた。

薄暗い建物の中はドームのようになっていて、目立ったものはほとんど見られない。ただ、円形の床の中央からは真っすぐに太い柱が伸びていて、上にある何かを支えているようだ。

そして周囲の壁に沿って建物の内側をぐるりと回るように螺旋階段があり、柱によって支えられた何かへと続いている。

地下へと続く道を期待していた私はとても複雑な気分になったけれど、今はここを調べてみるしか道がなく、クレアの手を引いて階段を登った。

無数にある窓は螺旋階段に沿って作られていて、階段を登っていくと、徐々に深い森のより高い部分を目にすることができた。最初は低木や高く伸びた草、次に太い木の幹、茂る緑の葉と時折通り過ぎる鳥たち。そして更に登ると、素晴らしい光景が待っていた。

一面に広がる緑の海。雲のようにも見える靄のかたまりがその上をゆっくりと風に運ばれており、日差しを受けて白く輝いて見える。

しばらく美しい自然の景色に釘付けになったあと、私たちは上へと続く階段の最後の数メートルを登り切った。そこには広いドームのてっぺんに浮いているように見える建物らしきものがあり、階段の頂上からその建物の入口に向かって細い橋が続いている。

私はクレアを待たせて橋を渡り、建物の入口に向かった。入口は錆の浮いた鉄の扉で、ちょうど目の高さに丸いガラスの窓がある。

「おねいちゃんま~だ~?」
「もうちょっと待ってなさい!」
窓から覗き込んでみたが、中がこちらよりかなり明るいためか、眩しくてよくわからない。私は思い切って扉のノブに触れた。

するとドアは空気の抜けるようなシュっという音とともに横に滑り、とても明るい部屋が姿を現した。

その部屋は天井全体がガラスの天窓になっており、いくつかの戸棚や本棚、ベッドが並べられた簡単な住居のようだった。片隅に置かれた大きな天体望遠鏡と、部屋の中央に立つ奇妙な円筒型のものが目を引く。

とりあえず危険なものはなさそうだ。私は待ち切れなくてイライラしている妹を室内へと招き入れるために振り返った。

天窓の部屋
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