[3.虹色の輝き]

不思議な力によって水上に橋を作り出した石柱の上を渡り、私とクレアは湖の中央に見える白い建物へと近付いていった。

石柱を一本踏む毎に建物の輪郭がはっきりと見えてきて、広い屋根を支えているたくさんの柱を数えられるほどになってくる。

Pear

レスト転送機があるという建物は白い石材で造られており、直径十メートルくらいある円形の床の上を、同じく丸く平たい屋根が覆っている。

屋根は等間隔で並んだ優美な曲線を描く複数の柱によって支えられており、周囲を囲む壁は無い。大きな東屋みたいな感じだ。

やがて足元で動く石柱はその建物へと達し、高くなっている床の上へと私たちを導く為に、きっちりと並んで階段を形作る。私はクレアと手を繋いで階段を上り、建物の床へと踏み出した。

建物の床は同心円になった三つの環で出来ていて、中心に向かって少しずつ低くなっている。そして最も内側には丸い床があり、その中央には何やら複雑な器械が載った台座のような物があった。

私とクレアはとりあえず二段目の環に降りて、台座と周囲の湖、頭の上を覆うドーム状の屋根を見ながらぐるりと一周してみた。

最も外側の環のあちらこちらに、無数の三角形を組み合わせたような多面体の置物がある以外には、目立ったものは無い。やっぱりこの建物が担う役割の全ては、中心に置かれている台座にあるみたいだ。

まずクレアが器械の置かれた床へと飛び降り、私もそれに続いて台座へと近付いた。台座は上の方が広がった五角形の柱みたいな感じで、私の腰の下くらいの高さがある。

上面は周囲の景色が映り込むほどに磨き込まれた黒い石かなにかで出来ていて、五角形の頂点に一台ずつ、たくさんの間接がある金属製の腕のようなものが生えていた。

その金属の腕の先端にはそれぞれ顕微鏡のような筒が取り付けられており、腕にあるたくさんの間接によってバラバラの方向に向けられている。

「なにこれ?」
思わず間の抜けた声を上げつつ更によく観察しようと近付くと、黒い石の上に様々な色をした綺麗な七つの水晶玉が転がっている。

そして中央には半球型のくぼみがある小さな金属の台座のようなものが同じく七つ、円を描いて並んでいた。ひょっとしたら、水晶を置くための台座なのかもしれない。

でもその他に手掛かりらしきものは無かった。私はどうしたら良いのか分からず、ぬいぐるみのトールを抱いてこちらを見上げているクレアの顔を見つめていたが、ふとあることを思い出してポケットから一枚の紙切れを取り出した。

それはクレアと再会した場所で見つけたメモで、確か七色という単語が書かれていた筈だ。
「帰る……旅、光の環、鍵……七色、順番……」
私は辛うじて意味が分かる単語を声に出しながら考えた。

だけど、あまりにも手掛かりが少なさ過ぎる。と、そのとき、クレアの口から思いがけない言葉がこぼれ落ちた。

Pear

「七色って、虹みたいだね」
虹という言葉と光の環という単語が頭の中で結びつき、私はガラス球の色を確認した。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。これは虹の七色だ。

それを思いついた私は黒い石板の中央にに顔を近付けた。中心に置かれた七つの小さな台座を観察すると、ひとつの台座の縁が赤く塗られている。

不思議そうな顔をしながら背伸びして覗き込むクレアの前で、その台座に赤い玉を入れると、時計回りに隣り合った次の台座の底から光が漏れ出した。多分そこが次の場所なのだろう。

虹の七色の順番に従って次々と玉を台座に入れていき、最後に残った紫色の玉を押し込んだ。それと同時に全ての水晶玉が光り始め、その光は徐々に強さを増していく。

少し怖くなって数歩下がった私たちの前で、台座の上にある器械が動き始めた。五つの顕微鏡のようなものがキリキリと音を上げて動き始め、その先端が七つの水晶玉によって形作られた円の中央へと向けられる。

すると顕微鏡の先端が指す場所に、ぼんやりと光る手形が浮かび上がった。その上に手を乗せろということなのかもしれない。

私は光を放つガラス球やそれに向けられた機械に視線を走らせながら、慎重に光る手形へと手を伸ばした。まず指先を乗せ、次に掌全体を光る手形にぴったりと会わせる。

その瞬間、私の掌を取り囲む七つの水晶玉から、建物内のもの全てを真っ白に染めるほどの強烈な光が溢れ出した。私はびっくりして手を放し、クレアとともに床に踞った。

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